排尿についての知識/病気の知識と病院リスト

【尿失禁の知識】

尿失禁とは?

一言で簡単にいうと、尿を漏らしてしまうことです。 大きく分けて次のような尿失禁があります。

切迫性尿失禁(せっぱくせいにょうしっきん)

突然尿がしたくなってがまんできなくなり、トイレに間に合わずに漏れてしまいます。
症状は高齢者によくみられます。脳卒中や脊髄の損傷などが原因となることもあります。

腹圧性尿失禁(ふくあつせいにょうしっきん)

咳、くしゃみ、笑いなどで尿が漏れてしまいます。女性の出産や男性の前立腺の摘出も原因となることがあります。また、肥満や便秘、喫煙などにも気をつけましょう。

溢流性尿失禁(いつりゅうせいにょうしっきん)

尿が膀胱に残り、少しずつ尿が漏れていきます。

機能性尿失禁(きのうせいにょうしっきん)

尿路外の原因(例えば認知症とか、骨折などによる移動障害)で尿が漏れます。

主な症状

尿失禁とは「意思目的に反して、尿が漏れる状態とそれによって日常生活の質(QOL)が低下すること」と定義できます。決して正常な老化現象では生じず(歳のせいではない)、簡便な評価治療で改善ないし完治できる病態です。尿失禁には「一過性尿失禁」と「永久的尿失禁」があり、「一過性尿失禁」は“DIAPPERS”に代表されるような病態の治療で改善する場合が多くなります。
(DIAPPERSとは次の1.〜8.の症状の頭文字をとった呼称です)

  1. 精神錯乱状態・譫妄 (Delirium)
  2. 尿路感染症 (Infection-urinary tract)
  3. 萎縮性膣炎または尿道炎 (Atrophic vaginitis or urethritis)
  4. 常用薬剤 (Pharmaceuticals)
  5. 精神的 (Psychological)
  6. 多尿 (Excessive urine output)
  7. 運動制限 (Restricted mobility)
  8. 便秘 (Stool impaction)  など

尿失禁には次のようなものがあります。

  • 切迫性尿失禁
  • 腹圧性尿失禁
  • 溢流性尿失禁
  • 機能性尿失禁

また、40歳以上の女性の3割に腹圧性尿失禁を認め、男性の1割に切迫性尿失禁を認めます。

一方、高齢者の頻尿、尿失禁の原因の主なものは、従来、蓄尿時の無抑制収縮に代表される「排尿筋過活動(detrusor overactivity)」でありました。しかし、2002年パリで開催された国際尿禁学会(ICS:International Continence Society)で、切迫性尿失禁の有無に関わらず、頻尿・尿意切迫感を有する病態を「過活動膀胱(OAB:Overactive Bladder)」と定義が変更されました。これは、症状で疾患を定義し専門医でなくとも診断を可能にし、薬物治療を受けやすくする効用が期待され、大いに評価されます。しかし反面、薬物治療が奏功しない場合の次の手、受け皿(専門医への紹介)を考えなければ薬物の濫用を生み出すだけで社会の混乱も予想されます。

治療と診断

尿失禁を診断することは、きわめてプライベートな症状です。患者を診断の前に如何に聞き出すかが鍵となります。「尿失禁がありますか?」という問いかけではまず診断はつきません。「おしっこに失敗したことはありませんか?」という問いかけからはじめましょう。次に病歴を聴取します。病悩期間がどれぐらいかを聞きます。客観的に尿漏れを証明します。患者の訴えの客観的把握には排尿日誌(voiding diary)が基本となります。週3日以上、何時に何ccの排尿があったかの記録にあわせ、どのような時に尿漏れを感じ(咳、くしゃみ、運動時、コーヒーやお酒を飲んだときなど)、また排尿量を記載してもらいます。他に手術歴、妊娠歴、性機能、便秘の有無、内服薬なども合わせて聴取します。

ある程度尿失禁の分類も初診時に行うべきです。腹圧性尿失禁、切迫性尿失禁、機能性尿失禁などというふうに分類します。

初診時に必要な検査は検尿です。尿失禁の原因で最大のものは膀胱炎です。検尿で尿路感染の有無をチェックする必要もあります。次に、尿漏れ(蓄尿障害)と言っても尿がすべて出ているわけではなく、尿排出障害を合併している場合が多くなります。次に残尿測定が初診時に必要な検査になります。排尿後に超音波膀胱画像診断装置(ブラダースキャン:Bladder Scan-BVI6100)で残尿を50ml以上認めれば「残尿あり」とし、100ml以上あれば間歇的自己導尿の指導が必要になってきます。

排尿日誌の情報は2回目の診察時に明らかとなりますが、1回の排尿量が150mlを切っていたり、1日の排尿回数で起きてから寝るまでに8回以上、就寝時1回以上の場合尿意切迫感を有すれば過活動膀胱と診断してよいことになっています。しかし、尿失禁はあくまで症状なのでその原因となりうるDIAPPERSの評価治療を行うことも重要です。

  1. 精神錯乱状態・譫妄 (Delirium):
    トイレの場所を把握できない場合もある。
  2. 尿路感染症 (Infection-urinary tract):
    最も多い原因である。
  3. 萎縮性膣炎または尿道炎 (Atrophic vaginitis or urethritis):
    間質性膀胱炎などと同類で尿道や会陰部の知覚過敏が原因で尿意切迫感、頻尿になっている場合がある。
  4. 常用薬剤 (Pharmaceuticals):
    利尿剤による多尿、安定剤などの抗コリン作用による残尿増加など
  5. 精神的 (Psychological):
    きわめて慎重に診断すべきであるが精神的なストレスも大きな原因の一つ
  6. 多尿 (Excessive urine output):
    意外に多い。
  7. 運動制限 (Restricted mobility):
    移動訓練、リハビリで尿失禁が改善することも多い。
  8. 便秘 (Stool impaction):

など。

DIAPPERSに示されるように、尿路因子はもちろんですが、尿路外因子のコントロールが尿失禁からの速やかな離脱を生む場合があります。一方、尿失禁が一旦改善したとしても、DIAPPERSが原因で尿失禁が再発する場合があります。従って、継続した管理が必要になってきます。具体的には、週3日以上の排尿日誌をつける習慣と、月1度の定期的な検尿および残尿測定が継続管理には不可欠です。

治療は排尿訓練、運動療法および薬物療法が中心となります。薬物療法は、尿路感染があれば抗菌剤を1週間処方して、尿失禁の程度を評価します。残尿が50ml以上認められれば、塩酸タムスロシン(ハルナール)、ウラピジル(エブランチル)を処方し、間歇導尿を指導して排尿後に導尿します。1回の排尿量が少ない場合、オキシブチニン(ポラキス)(2mg)、プロピベリン(BUP-4)(10mg)を朝1錠内服してもらいます。 尿意切迫感の強い過活動膀胱も、同様に抗ムスカリン剤のBUP-4を処方します。初期尿意が遷延し排尿障害が強い場合、ウブレチドを処方します。症状別の治療では、腹圧性尿失禁に塩酸クレンブトロール(スピロペント)20μg2T、切迫性尿失禁にはオキシブチニン(ポラキス)(2mg)、プロピベリン(BUP-4)(20mg)が有用です。

トイレ環境の整備やトイレ歩行の訓練、女性の膣や肛門を閉める体操(骨盤底筋体操)も併用することで一定の効果が得られます。

総合的治療を2〜3ヶ月行う際、尿失禁の改善が認められない場合、泌尿器科専門医の診察が必要だと考えます。

本稿は以下の3つのガイドラインをもとに、私の臨床経験と照らし合わして書いています。

  • Bengtson J, Chapin MD, Kohli N, Loughlin KR, Seligson J, Gharib S. Urinary incontinence: guide to diagnosis and management. Boston (MA): Brigham and Women's Hospital; 2004
  • 高齢者尿失禁ガイドライン(平成12年度厚生科学研究費補助金事業)
  • 過活動膀胱診療ガイドライン(日本排尿機能学会)2005年

経過、予後

尿失禁の治療成績は、一度良くなっても尿路外因子が原因で再発することも少なくありません。50歳以上の尿失禁患者の薬物療法の再発率はおよそ20%で、75歳以上になると約半数は再発します。しかし、再び治療を開始することで、再発した尿失禁は改善することが多く、あきらめてはいけません。

疫学調査(「終わりに」を参照してください)で得られた尿失禁の危険因子は、男女とも尿路感染症、女性の糖尿病や子宮筋腫摘出などの骨盤内手術、男性の脳血管障害が有意な危険因子でした。さらに尿漏れが続くからといって、長期にバルーンカテーテルを留置することが、治療を難しくする最大の予後決定因子です。まずバルーンを抜去して、検尿・残尿測定をしながら、排尿日誌で記録をつけるのが基本となります。

患者や家族への説明のポイント

尿漏れは「歳のせい」ではありません。もちろん認知症の始まりでもありません。

頻尿や尿意切迫感は「気のせい」ではありません。次の点に留意し、うまく対処できる病気だと温かく説明しましょう。

  • 尿が漏れているからといってすべて漏れているわけではない。
  • 尿漏れが止まったことで、尿が出にくくなっていないか気をつける。
  • 排尿時の痛みや残尿感が強くなった場合、膀胱炎の疑いがある。
  • 検尿や残尿測定などの検査は定期的に受ける。
  • 家族で普段から排尿日誌をつける習慣をつけさせる。

オムツをやみくもにあてがう事は避けましょう。ただし、オムツを使用する事により、外出しやすくなることもありますので、臨機応変に考える必要があります。

長期旅行の前には排尿日誌を持参して検尿を受けましょう。

2〜3ヶ月の治療で改善しない場合、泌尿器科専門医の診察を受けましょう。

終わりに

40歳以上の地域住民の無作為抽出調査で、過去3ヶ月間で女性の53.7%,男性の10.5%に尿失禁が認められました。しかし、尿失禁と認められた人で、3%の人しか医師の治療を受けていないことがわかっています。また、日本排尿機能学会の疫学調査によると、40歳以上の日本人の中で、月に1回以上の尿失禁の経験がある人は2100万人に上ると推定されています。そのうち切迫性尿失禁の経験者は560万人、腹圧性尿失禁の経験者は860万人と推定されています。

過活動膀胱(※頻尿・夜間頻尿を伴う状態)の抽出条件として、排尿回数が1日8回以上、尿意切迫感(急に尿がしたくなり漏れそうになる)が週1回以上とすると、810万人(12.4%)が該当すると推定されています。そのうち尿失禁のある人(OAB wet)は430万人(6.4%)、尿失禁の無い人(OAB dry)は380万人(6.0%)と推定されました。

このように尿失禁は非常にありふれた症状であるにも関わらず、医療対象になりにくいことがわかってきました。診断も難しい専門的検査を必須とした時代から、尿漏れで困るといった症状で診断し、治療する時代にかわりつつあります。すなわち、治療の最終目標が「病態の改善」ではなく、「日常生活の質の維持、向上」といった満足度に変わりつつあります。人知れず悩んでいる人々を救うのも、外来診療をしている第一線の医師であることは間違いありません。日本ではまだまだタブーである「尿失禁」を医療対象にするのも、優しい声かけから始まるのです。

頻尿 昼間8回以上あるいは夜間3回以上トイレに行く状態


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